動き回る石の謎
デスバレー国立公園 (Death Valley National Park)はカリフォルニア州南西部・ネバダ州との州境に位置し、アラスカ州を除くと総面積13,518㎢を誇る全米一大きな国立公園です。
また北米大陸で最も標高が低い海抜下86mの塩湖から3,368mの高山までを有する、アメリカで最も暑く最も乾燥した、夏には気温50℃を超える事もある灼熱の地です。
*ちなみにアラスカ州のデナリ国立公園 (Denali National Park)は面積24,585㎢
ザブリスキー・ポイント |
この過酷な自然環境は、気の遠くなるような長い時間をかけて形成されたもので、非常に複雑な地形が見られます。最も古い地層は約17億年前の変成岩で、古代の海の浅瀬に堆積した泥や砂が石化したもの、その後太平洋プレートと北米大陸プレートの摩擦で火山帯が形成され、隆起と伸張が何度も繰り返されて現在のような幻想的な地形が生まれました。このあたりには紀元前8,000年頃から先住民が生活していたことが解っていますが、最後の氷河期が終わった頃に人類の定住が始まったと言われています。今は完全に干上がってしまいましたが当時はデスバレーをほぼ埋め尽くすほどの巨大な湖が点在し、気候は現在より大幅に涼しく比較的に温暖で、狩猟の対象となる動物もたくさんいたようです。紀元前3,000年〜西暦元年には、メスキート・フラット族やサラトガ・スプリング族が生活していましたが、気候の変化でこの地域の温暖化・砂漠化が進み、それに伴い彼らもネバダ州の南部まで移動して行きました。高温・乾燥化がどんどんと進む中、現在もこのデスバレーに住み続けているティンビシャ・ショショニ族の祖先が西暦1,000年頃に遊牧民としてやって来たと言われています。
ゴールデンキャニオン |
命からがら谷から脱出した直後に団員のひとりが「Good by Death Valley !」と言ったとか・・・これがデスバレーの名前の由来とされています。
以来、毎年何人もの人々が命を落としている「死の渓谷」ですが、このゴールドラッシュによりデスバレー付近でも金が見つかり、いくつもの町が生まれては消えていきました。ゴールドラッシュは一時的なブームで終わりを告げましたが、その後発見された硼砂 (ホウ酸ナトリウム)の採掘がこの地域に長期的な利益をもたらします。硼砂は石鹸やガラス加工の原料として多用され、特に耐熱ガラスの生産には欠かせません。
デスバレーは1933年に国定公園に指定、その後1994年に国立公園に認定されました。
レーストラックで動き回る石 |
また「動く石」は地面に軌跡を残すことから移動したことは明らかですが、数年に一度という間隔でしか動かないため観測はきわめて難しいと言われていました。
過去数十年、この「謎」の現象には様々な解明が試みられてきました。強風説や氷結説、中にはUFO説まで唱えられましたがあくまで仮説、実際に石が動いている現場を見た者は誰もいませんでした。
2011年冬、NASAに属する研究機関Scripps Institution of Oceanographyのリチャード・ノリス (Richard Norris) が率いる調査隊が観測所を設置、この謎の解明に挑みます。
まず、動くと電源が入るモーションセンサー付きの小型GPSを組み込んだ15個の石を用意、レーストラックの各所に置きました。国立公園内の石にGPSを付けることは許可されていないためです。当初5〜10年の調査期間を想定していたそうですが、2年後の2013年12月、ついに「石」が動く様子を観測、動画にも記録することに成功します。
ノリス達は「石は氷に押されて移動している」ことを突きとめたのです。
そのメカニズムは・・・
① デスバレーの冬の雨期、台地が池になる
② 夜間の冷え込みで池の水が凍る
③ 日が昇り気温が上がると氷が溶けて割れる
④ 割れた氷の断片が強風に吹かれ池の上を移動する
⑤ この氷の断片が、同時に石を押して移動させる
⑥ 池の水が干上がると石が移動した痕跡だけが残る
観測では石の移動速度は分速2〜6m、石によっては60m以上も動いたものもあるそうです。
またこの調査により、石が動くための条件も明らかになりました。
石が動くためには・・・
① 台地が池になるほどの降雨と凍結
② 秒速3〜5mほどの風
③ 風で移動できる程度の厚さ3〜5mmほどの氷の断片
④ 氷の断片が自由に動け、また石を押すのに適切な7cmほどの水深
*池が深過ぎると氷が石の上を通過してしまうので
こうして調査隊いわく「史上最も退屈な実験」により「動き回る石の謎」は解明されたのでした。
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