2/07/2016

ザ・ゲイサーズ 地熱発電地帯 (The Geysers Geothermal Power Plants)

サンフランシスコから北へ120km、ソノマ群 (Sonoma County)とレイク群 (Lake County)にまたがるマヤカマス山脈 (Mayacamas Mountains) の山中に総面積117㎢を誇る世界最大の地熱発電地帯があります。
ザ・ゲイサーズ地熱発電所
ここで地熱発電を行っているのは、天然ガス・太陽光・地熱による発電ではアメリカ合衆国最大の電力会社カルパイン社 (CalPine Corporation)で、全米18州とカナダに多くの発電所を所有しており総計約27,000メガワットの電力を供給しています。
1989年からザ・ゲイサーズでの地熱発電事業に参入、現在では72,5000世帯を賄うことが可能な725メガワットを発電するに至っています。

1800年代の中頃、ちょうどゴールドラッシュの頃からこの地域での熱水現象が確認されていますが、最初の本格的な開発は1860年代から80年代にかけての観光事業で、1957年にはザ・ゲイサーズ・ホテル (The Geysers Hotel) が建てられ観光名所となっていきました。
1923年、ジョン・グラント (John C. Grant) が地中から吹き出る高圧蒸気を利用した発電を考案、小さな発電小屋で35キロワットの発電に成功したのを機に、小規模な地熱発電事業が盛んになっていきます。しかし、1930年代に入ると安価な原油による火力発電と競合できなくなっていきました。
一方、観光産業は1957年に建てられたザ・ゲイサーズ・リゾート・ホテル (The Geysers Resort Hotel) が1978年に火事で消失するまで続いていきます。
ザ・ゲイサーズの蒸気田

1960年、ザ・ゲイサーズ (The Geysers) おける本格的な商業ベースの地熱発電所がパシフィック・エレクトリック・ガス社 (Pacific Electoric & Gas〜通称 PG & E) によって稼働、11メガワットを発電して以来1986年にはノーザン・カリフォルニア・パワー・エージェンシー社(Northern California Power Agency〜通称 NCPA) も参入し合計2,043メガワットを供給できるようになっていきました。
ところが1989年、何基もの発電所による高圧蒸気の過剰消費により地下水と蒸気圧が極端に減少していくという事態に陥ってしまいました。大手2社が撤退を余儀なくされる中、カルパイン社はある奇策を持って参入します。
発電余剰水の還元や雨水だけでは賄えない地下水を、パイプラインを利用し周辺都市の処理済み下水を引き込み、地中深く注入して地下水と蒸気を安定供給するというもので、現在ソノマ地域から46km・クリアレイク地域から64kmのパイプラインにより3,420万リットル、サンタローザ地域から67kmのパイプラインを利用して4,180万リットル、合計7,600万リットルの再生利用水を確保しています。
それではザ・ゲイサーズにおける地熱発電のメカニズムを説明しましょう。
地熱発電のメカニズム
地球上にはマグマが極端に地表に近い所に存在するホットスポットと呼ばれる場所が多数あり様々な熱水現象が見られます。ザ・ゲイサーズもその一つで、地中から温泉 (熱水) ではなく高圧蒸気が吹き出しています。
マグマによって熱せられた地下水が沸騰、その上の厚い岩盤層 (キャップロック) に阻まれて高圧蒸気となり、地層の割れ目から吹き出しているのです。
スティームウェルズ
発電タービン
この高圧蒸気を取り込むためにいくつもの井戸を垂直に掘り、パイプを通して蒸気を集めます。ここには327基の蒸気を取り込む井戸・スティームウェルズ (Steam Wells) があります。蒸気の温度は188℃、平均の井戸の深さは2,550mですが、深いものですと3,870mにも達します。
蒸気は全長128kmのパイプラインを利用して最寄りの発電施設 (敷地内に14軒ある) に運ばれます。
この高圧蒸気を利用してタービンを回し発電する訳です。使用済みの蒸気はコンデンサー (Condenser・復水器) とクーリングタワー (Cooling Tower・冷却塔) に送られ、冷やして水に戻した後に全長128kmのパイプラインを利用して56基の注入井戸・インジェクションウェルズ (Injection Wells) から地中深くに還元するというのがザ・ゲイサーズでの基本的な発電行程になります。
クーリングタワー
地中から吹き出す蒸気の中には多少の硫化水素 (H2S) が含まれているので、コンデンサーにより蒸気を水に戻す段階でこの気体を回収し固形化する装置が付いています。この硫黄成分は農業用肥料として再利用されます。
また、ある程度の蒸気は気化してしまいますので、利用した蒸気の全てを水として再び地中に戻すことはできません。
H2S処理装置
そこで周辺都市の処理済み下水を注入井戸を利用して更に送り込み、充分な地下水を確保することになる訳です。

日本は世界有数の火山地帯で、現在国内に17ヶ所の地熱発電所がありますが、1999年開業の八丈島を最後に新たな建設は進んでいません。温泉産業がその足を引っ張っているとも言われています。
しかし近年、温泉から湧き出る熱湯を利用し、フロンのような水より低沸点の熱触媒を熱水で気化させてタービンを回す地熱バイナリー発電が見直されています。
発電に使ったお湯を温泉に引き込むことでウイン・ウインの関係を作り上げ地域の活性化を目指そうというわけです。


1/21/2016

コロラド川ラフティング (Colorado River Rafting)

コロラド川のラフティングというと、つい激流下りを思い浮かべてしまいます。この本格的なホワイトウォーター・ラフティング (Whitewater Rafting) は、船底がアルミニウム製の強固な大型ゴムボートに乗り最短で3日、最長で2週間程をかけてマーブルキャニオン (Marble Canyon) からグランドキャニオン (Grand Canyon) の大小様々な激流を下っていくものです。
*マーブルキャニオンはペイジの南西 リーズ・フェリー (Lees Ferry) からグランドキャニオン入り口までの渓谷

一方この度ご紹介する半日ラフティングは、誰にでも簡単に楽しめるスムースウォター・ラフティング (Smoothwater Rafting) 、急流の無い緩やかな流れをのんびりと往復するコースで、グレンキャニオン・ダム (Glen Canyon Dam) の真下から出発します。



コロラド川・スムースウォーター・ラフティング

ゲートシティーはアリゾナ州ペイジ (Page)。このダム建設に従事した労働者達がその礎を築きましたが、現在は西部観光名所を結ぶハイウェー上の要所の町となっています。
送迎バス
2005年に国立公園局 (National Park Service) の認可を受けたコロラド・リバー・ディスカバリー (Colorado River Discovery) というラフティング運営会社のウエルカムセンターが町の中心にあり、まずここで参加手続きを済ませます。米国国土安全保障省 (Dep. of Homeland Security) の規定によりバックパックやハンドバッグはボートに持ち込めませんので、受付で無料のビニールバッグをもらい、貴重品や必要最低限の私物を入れ送迎バスに乗り込みます。センター内のカフェでは飲み物やサンドイッチが販売されていますので、ラフィティング用にテイクアウトしても良いでしょう。ボート上での飲食は許可されていますので、川を下りながらお弁当を食べるのも一興ですね。
ラフティング・ドック

バス発車後市内を西へ10分程走り、真っ暗なグレンキャニオン・ダム・アクセス・トンネル (Glen Canyon Dam Access Tunnel) の中を約3km下るとダムの真下にあるラフティング・ドック (船着き場) に到着します。下車したらダムの安全規則によりヘルメットを着用、ボートまで鉄製の桟橋を更に徒歩で下っていきます。ヘルメットを返却しいよいよボートに乗り込みますが、ここに救命胴衣が用意されています。着用は特に義務付けられておらず各自の判断に任されています。ボートが極端に揺れるほどの急流はなく、暑い日や写真撮影の際にはかえって邪魔になるかもしれません。ボートはゴム製で15名は楽に乗る事ができる大きさ、後方にエンジンと操縦席があり、パイロット (操舵士/ガイド) が手を取り乗船を助けてくれます。
ラフティング・ボート
ここから見上げるグレンキャニオン・ダム (Glen Canyon Dam) は高さ216m・全長 (幅) 475m、1956年に建設を開始し1966年に完成しました。高さでは全米第4位、総出力1,288メガワットを誇っています。
コロラド川をせき止めるこのダムの建設によってできたパウエル湖 (Lake Powell) とその周辺一帯は、面積約5,075㎢の国立レクリエーションエリアとなっており全米有数の観光リゾートとなっています。川に沿ってできた人造湖の長さは約300km、東京・名古屋間の距離に相当し、迷路のような湖岸線は多くの入り江を生み出しその全長は約3,200kmにも及びます。
ダムにはビジターセンターが隣接されており、ジオラマをはじめ湖に面したガラス越しに巨大なダムを見下ろすことができます。
*グランドキャニオン国立公園 (Grand Canyon National Park) を挟んで下流に位置するフーバー・ダム (Hoover Dam) は、1936年完成で高221m・長さ (幅) 379m、総出力2,080メガワット、ニューディール政策の一環で建設された
*フーバー・ダムによってできたミード湖 (Lake Mead)は全米最大の人造湖
グレンキャニオン・ダム
こうしたダムの説明、流域の歴史・地勢や動植物の話しをしながらスピードを巧みにコントロールし、パイロットは穏やかな川を下っていきます。両側にそびえる垂直の絶壁は、高い所で300mにも達し、砂岩のオレンジ色と青空とのコントラストが絶景です。
ナバホ砂岩の壁面にはデザート・バーニッシュ (Desert Varnish) と呼ばれる焦げ茶色の部分がいたるところに見られますが、これは酸化マグネシウムとバクテリアの作用による変色です。のんびりと水鳥を眺めながら進むと、川面の所々にはマスを釣る人々の小舟が浮かんでいます。
パイロット/ガイド
ちなみにボートには屋根は無く日陰が一切ありませんので帽子やサングラスの用意はかかせませんね。
しばらくボートを下流に進めると上陸地点、ここには古代先住民のペトログリフ (壁画・Petroglyphs) が砂岩の壁面に残されています。まず砂浜にボートを着け少し登ると公衆トイレが4基、更に小道を奥へ歩くと岩壁に刻まれたペトログリフが右手に保存されています。
長い歴史の中で異なる先住民が刻んだその意匠は時代によって異なります。
ペトログリフ
再びボートに戻りお馴染みのホースシュー・ベンド (Horseshoe Bend) まで下ります。
コロラド川が大きく馬蹄形にカーブしている名所で、絶壁の上から俯瞰した景色はとても有名ですが、逆にボートで「くにゃっと」馬蹄形にカーブを切り川面から絶壁を見上げるのがこのコースのハイライトの一つなのです。
1869年、南北戦争で右腕を失った元軍人で地質学者のジョン・ウェスリー・パウエル (John Wesley Powell) が10名の隊員と4隻の木製手漕ぎボートでこの川の周辺を探検した時と変わらぬ光景が広がっています。
*J.W. パウエルは2年後の1871年に第二次探検隊を組織し、再度コロラド川に挑戦している

そしてボートはここでUターン、上流に向って速度を上げラフティング・ドックまで戻ります。
*そのまま更にリーズ・フェリー (Lees Ferry) まで下り終了するコースもある


コロラド川はロッキーマウンテン国立公園 (Rocky Mountain National Park) に源を発し、メキシコ領バハ・カリフォルニア (Baja California) からカリフォルニア湾に注ぐ全長2,330km、全米第6位の長さを誇る大河です。平均水深は9m、最も深い所で水深33mを誇り、グランドキャニオン渓谷内では最長の川幅が91mにも達します。
このコロラド川水系は、ネバダ州のラスベガス、カリフォルニア州南部のロサンゼルスやサンディエゴ、アリゾナ州のフェニックスやツーソンなどの大都市を含む西部7州 約4,000万人に生活用水を提供しており、また西海岸南部農産地帯をささえる農業用水としても大切な水源です。
かつて、20世紀初頭までは河口一帯は緑豊かな自然の宝庫でした。ところがフーバー・ダム (Hoover Dam) とそれに続くグレンキャニオン・ダム (Glen Canyon Dam) の完成により、大量の電力が確保できた反面カリフォルニア湾に注ぐ水量が激減、さらに近年の水の過剰消費と干ばつの影響により、もはやコロラド川の雄大な流れは海までは届かなくなってしまいました。